田端の高齢者で慢性腰痛の鍼灸治療
要点
高齢者の慢性腰痛に効果があり、薬による副作用に比べると安全です。
鍼治療は、腰痛による日常生活の不自由さを1年間改善しました。
鍼治療を加えると、通常の治療より10〜14%、症状が改善しました。
薬との併用や、薬以外の治療法を検討している方にもお勧めです。
高齢者の慢性腰痛について
鍼治療の効果を調べた大規模研究
鍼治療で改善した日常生活の不自由さと効果の持続性
継続鍼治療は必要か
鍼治療の安全性
高齢者の慢性腰痛に対する鍼治療のまとめ
年だから仕方ない」と思っていませんか。
高齢になると筋力の低下や姿勢の変化により、腰痛が長く続くことが増えます。これを慢性腰痛(3か月以上続く腰痛)と呼び、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
腰痛は世界中で、日常生活を制限する大きな原因のひとつです。
2022年の国民生活基礎調査では、65歳以上の方は男性で16.5%、女性で18.3%の方が腰痛を自覚されています。
注意を要する腰痛も増え、女性では転んだりぶつけたりがなくても、骨粗しょう症の為、気づかないうちに骨折していて腰痛が続くこともあります。
腰痛は立ったり、起きたり等の動き初めに多く見られ、座っている時には痛みは少ないことが多いです。
しかし、痛み止めや湿布等の薬だけではなかなか改善しないこともあります。
特に高齢の方では、薬の副作用や他のお薬との飲み合わせにも注意が必要です。
米国では薬の使いすぎによる健康問題が看過できない状況で、薬を使わずに身体への負担を減らす治療法として注目されているのが鍼治療です。
こちらではアメリカで行われた、高齢者の慢性腰痛に対する鍼治療の効果を調べた大規模研究を紹介し、説明します。
アメリカの大規模医療機関4か所で65歳以上、平均74歳の800人を対象に行われた、無作為比較試験です。
参加者は次の3つのグループに同条件で均等に分けられました。
1 通常医療のみ
2 通常医療+鍼治療
3 通常医療+鍼治療+継続鍼治療
通常医療のみは病院などで12週間、一般的な治療(薬、リハビリ)を受ける。
通常医療+鍼治療は通常医療に加え、12週間内で8〜15回の鍼治療を受ける。
通常医療+鍼治療+継続鍼治療は通常医療+鍼治療に加え、12週後にさらに4〜6回の鍼治療継続を行う。
鍼治療は、国家資格を持つ経験豊富な鍼灸師が行い、効果は6か月後と1年後に評価されました。
研究では、腰痛による生活の不自由さを測り、効果を評価しました。
結果は
鍼治療を受けた方は、通常医療のみの方より明らかに不自由さが改善。
改善効果は治療後6か月だけでなく、1年後も続いていました。
また、痛みの強さや生活の満足度も向上し、12か月後も効果が続いていました。
特に不安感の軽減にも効果が見られ、心身両面での改善が報告されています。
鍼治療と、さらに治療を続けた継続鍼治療を比べたところ、腰痛による生活の不自由さの改善には大きな差は見られませんでした。
しかし、痛みの強さや不安感の軽減では、継続鍼治療を行った方が効果がありました。
痛みをさらに減らしたい方や、再発予防には定期的な鍼治療が効果的かと思います。
当院でも症状が落ち着いている高齢者の患者さんは、月1~2回程度の通院の方が多く見られます。
この研究では、鍼治療による副作用はきわめて少なく、重い副作用は0.1%以下でした。主な軽い反応は鍼を打った時の軽い痛みや違和感で、薬による副作用に比べると安全です。
日本国内や海外での鍼治療の安全性についてはこちらで説明しています。
6.高齢者の慢性腰痛に対する鍼治療のまとめ
今回ご紹介した大規模な研究では、65歳以上の慢性腰痛に対して、鍼治療が効果的で安全性が高いことが証明されました。
通常医療だけの方に比べ、鍼治療を併用した方では、さらに腰痛による動きづらさが10〜14%多く改善し、その効果は1年間持続しました。
また、重い副作用はほとんどなく、薬との併用や薬以外の治療法を検討されている方にも適した治療法です。
当院では、個人の症状に合わせて高齢者に鍼灸治療を行っています。
痛みの少ない生活、快適な日常生活を取り戻すために、もう年だから…と諦めず、まずは鍼治療を試してみてはどうでしょうか。
参考文献
DeBar LL,et al. 高齢者の慢性腰痛に対する鍼治療:無作為化臨床試験. JAMA Netw Open. 2025 Sep 2;8(9):e2531348. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.31348.