鍼灸院に定期的に通院されている方は、日頃からマルチビタミンのサプリメントを飲んでいる方も少なくないかと思います。
栄養が偏りがちだからや、健康でいたいからという理由で、飲んでいる方も多いのではないでしょうか。
米国でも成人の3人に1人が、病気予防のためにマルチビタミンを利用していると言われています。
しかし、2024年に発表された大規模な疫学調査では、死亡率に差は見られませんでした。
今回はその内容を皆さんの食生活に役立てていただけるよう、分かりやすくお伝えします。
この研究は、米国の約39万人を対象に行われました。
参加者の平均年齢は約62歳で、最長で27年もの間、その後の経過を追い続けた信頼性の高いデータです。
研究の目的は、毎日マルチビタミンを飲んでいる人は、飲んでいない人に比べて長生きできるのかを検証することです。
日本でマルチビタミンを毎日飲んでいる人たちの特徴と類似しているかと思いますが、米国の調査でも、毎日飲んでいる人は飲んでいない人に比べて、女性の割合が高く、大学教育を受けている割合も高く、喫煙率が低いという傾向がありました。
やはり、もともと健康意識が高く、生活習慣に気をつけている人がサプリメントを好んで摂取されていました。
ですが、約39万人を27年間追跡した研究結果では、毎日マルチビタミンを飲んでいるグループと、飲んでいないグループの間で、死亡リスクに差は認めらませんでした。
さらに、解析の結果によっては飲んでいるグループの方がわずかに死亡率が上がっているような数値も見られました。(統計的には大きな差ではありませんが約4%の差)
この結果は、がんや心臓病といった主要な死因別に見ても同様の結果でした。
2022年に米国の専門家組織が発表したサプリメントの効果を判断するにはエビデンス(医学的根拠)が不十分であるという見解を、改めて裏付ける形となりました。
多くの人が健康になりたいと思い、サプリメントを手にとるかと思います。
これからはサプリメントに頼るのではなく、バランスの良い食事と質の良い睡眠で基本に忠実な生活目指して頂ければと思います。
参考文献
Loftfield E, et.al . 米国における3つの前向きコホート研究におけるマルチビタミン摂取と死亡リスク
JAMA Netw Open. 2024 Jun 3;7(6):e2418729. doi: 10.1001
・頭を60度傾けると、首には通常の約5倍、約27kgもの重い負荷がかかります。
・スマホ操作による悪い姿勢は、年間で700〜1400時間も首に負担をかけています。
・正しい姿勢を取ると耳と肩が垂直になります。
前回のブログに続いて、今回はスマホ首がテーマです。
私たちの生活に欠かせないスマートフォンですが、総務省が発表した、令和7年通信利用動向調査の結果では世帯の保有割合が 約92%となりました。
日常生活でスマホを使用する際のうつむき姿勢が、首の骨や筋肉に大きな負担をかけています。
臨床試験の結果では、頭を前に傾けるほど、首にかかる負担は増加していました。
真っ直ぐな状態では5kg程度の負担が、深く傾けると約27kg。
これは、小学校低学年の児童を肩車しているほどの重さです。
この状態が毎日数時間、年間で千時間以上続くと、首の変形や将来的な痛みの原因のひとつになります。
普段は頭の重さを意識することはありませんが、大人の頭の重さは、真っ直ぐに立っている状態で約5kgあります。
これはボウリングの球ほどの重さですが、首の骨が正しく支えることで負担を逃がしています。
ですが、スマホを見るために頭を前に傾けると、物理的な負担は一気に増加します。
15度傾けると約12kg
30度傾けると約18kg
45度傾けると約22kg
60度傾けると約27kg
深くうつむいてスマホを覗き込む姿勢は、首に対して27kgの負担をかけ続けていることになり、首や肩のこりの原因のひとつになります。
さらに、現代人は1日に平均2〜4時間をスマホの閲覧に費やしています。
これを1年間に換算すると、700時間から1400時間もの間、首に過度なストレスを与え続けている計算になります。
スマホを全く使わない生活は困難ですが、工夫次第で負担を大幅に減らすことができます。
鍼灸治療に加えて、日常生活でも気を付けることでスマホ首を防ぎましょう。
1.スマホを目線の高さまで上げる
頭を下げるのではなく、スマホを持つ手を高く上げ、視線を真っ直ぐ保つようにしましょう。
2.耳と肩の位置を意識する
正しい姿勢とは、横から見た時に耳が肩の真上に並んでいる状態で、肩甲骨を軽く引いた姿勢です。
3.長時間の使用を避ける
同じ姿勢で数時間過ごさずに、こまめに休憩を挟んで首を動かしましょう。
参考文献:Hansraj KK.姿勢および頭の位置によって生じる首への負担の評価 . Surg Technol Int. 2014 Nov;25:277-9.
最近、スマホばかり見ているなと不安になることはありませんか。
昨年の研究で、スマホのネット接続を2週間お休みするだけで、心と脳に良い変化が起きることが明らかになりました。
この研究では、アメリカ人とカナダ人の平均年齢32歳、467名の参加者を対象に、専用アプリを使ってスマートフォンのモバイル通信を2週間完全に制限しました。
電話やメールといった基本的な連絡手段は維持しつつ、インターネットへの常時接続のみを制限したのが特徴です。
制限後の注目点は、スマホの使用時間の劇的な変化です。
実験前は1日平均で約5時間以上スマホを使っていた参加者たちですが、制限期間中は約2時間半〜3時間と、ほぼ半分にまで減少しました。
しかも、2週間の制限が終わって自由になった後も、使用時間は実験前より短い状態が続いていました。
効果は高く、参加者の約9割に何らかの改善が見られ、特に集中力の向上は脳が10歳若返ったのと同等のレベルでした。
また、幸福感が高まるだけでなく、不安やうつといった心の健康状態も大きく改善し、その効果は一般的な抗うつ薬の平均的な効果を上回りました。
変化の要因としては、スマホに使っていた時間が、友人との会話、運動、自然の中での散歩、読書といった現実の世界の活動に置き換わったからかと考えられます。
睡眠時間も約20分増え、自分の行動を自分で管理できているという自信がついたことも、心に良い影響を与えました。
現代の私たちの、常にネットと繋がりSNSを意識する生活は、想像以上に心と脳を消耗させているのかもしれません。
完全にネットを断つのは難しくても、意識的に数時間はスマホを置いてオフラインの時間を少しずつ増やしてみませんか。
それだけで、心にゆとりが生まれ、不安を減らし、幸福感の高い毎日が送りやすくなるかと思います。
鍼灸院に通院される患者さんの喫煙率は低く、当院の患者さんでも少数なのですが、慢性的な痛みにお悩みの喫煙者の方へのお話です。
喫煙者の患者さんの認識では、喫煙の肺や血管への影響はご存じかと思いますが、長引く痛みに対してタバコは痛みを強くし、治りを遅くする大きな原因であることはご存知ない方が多いかと思います。
痛みの専門家が集まる日本ペインクリニック学会が、過去20年間の研究データを分析してまとめた、喫煙と慢性的な痛みの関係を説明します。
• 喫煙者の慢性的な痛みの危険性は非喫煙者の2倍以上あり、痛みの強度も強くなる傾向があります。
• ニコチン切れによる離脱症状が神経を過敏にさせ、痛みを感じやすい体質を作ります。
• 喫煙は椎間板の変性や骨粗鬆症を引き起こし、腰痛等の原因を自ら作り出します。
• 手術前3週間以上の禁煙を行うことで、術後の痛みを和らげ、回復を早めることが可能です。
2000年1月から2020年6月までの20年間に発表された、英語と日本語の医学研究を専門家が分析した結果です。
研究の結果、慢性疼痛に悩む方の喫煙率は42〜68%で、非喫煙者の2倍以上でした。また、喫煙は筋肉や骨の痛みを20%以上高め、背骨の痛みや頭痛の発症リスクも2倍以上で、10年以上の痛みが続くリスクも喫煙者は1.4倍です。
タバコに含まれるニコチンは、吸った直後は脳内でドーパミンや内因性オピオイド(天然の鎮痛物質)を出し、一時的に痛みを忘れさせます。しかし、この効果は30分ほどで切れてしまいます。
ニコチンが切れると、脳や神経は逆に痛みに対して非常に過敏な状態(痛覚過敏)になります。
喫煙を続けると、この一時的な緩和と離脱による痛み増強を繰り返す依存のサイクルから抜け出せなくなり、結果として常に強い痛みを感じ続けることになります。
また、喫煙は血流を悪化させ、組織の修復を妨げます。具体的には、背骨のクッションである椎間板を傷めたり、骨密度を下げて骨折のリスクを高めたりするため、腰痛などの物理的な痛みの原因を自ら悪化させてしまうのです。
最近の加熱式タバコも、紙巻きタバコと同程度のニコチンを含むので、同様のリスクがあると考えられています。
タバコを吸っていると、せっかく処方された痛み止めの薬が身体に吸収されにくくなったり、手術やの効果が十分に得られなかったりすることがあります。
ですが、手術を受ける3週間以上前から禁煙を頑張ることで、手術後の痛みをはっきりと軽くできるというデータも出ています。
慢性的な痛みを抱えている方は、痛みによるストレス解消のためにタバコが手放せないという方もいらっしゃるかと思いますが、禁煙そのものが痛みの重要な治療であるという考えを持つことが、痛みの緩和への近道となります。
禁煙を始めると、最初は離脱症状で痛みが増したように感じることがありますが、これは身体が正常に戻ろうとしている一時的な兆候です。
禁煙が困難な方は禁煙外来に通院したり、禁煙補助薬を使用して、禁煙中のイライラや痛みの増強を抑えることもできます。また、禁煙と並行して運動を取り入れることもおすすめです。
運動による鎮痛効果は依存性がなく、生活の質を向上させてくれます。
当院の近辺の旧古川庭園や六義園のお散歩も良いかと思います。
救急外来を受診された急性の筋肉や骨の痛み(首、腰、背中、手足等)の患者さんを対象に、通常の治療(投薬等)に加えて鍼治療(耳鍼または体表鍼)を併用することの効果を調査した研究をご紹介します。
アメリカのデューク大学にある救急外来で行われた鍼治療236名の結果です。平均年齢46歳(19歳~85歳)、女性56%男性43%、黒人45%、白人34%、その他の人種18%と様々な人種や年齢を対象に行われました。
この研究の結果、救急外来での鍼治療は安全で、患者さんに大変受け入れられやすく、通常の治療のみの場合と比べて、痛みをより大きく軽減できることが示されました。
・救急外来という限られた時間と場所の中でも、鍼治療が通常の治療に上乗せして安全に実施できました。
・鍼治療を受けた患者さんは、丁寧な対応と鍼治療に対し、非常に高い満足度でした。
・通常の治療のみの場合と比較し、鍼治療の併用は、治療1時間後の痛みを有意に減らしました。
・様々な人種や年齢の患者さんに効果がありました。
皆さんは、急な痛みで救急外来に行った際、どのような治療を受けられましたか。
首、腰、背中、手足などの痛みは非常に重度になることが多く、従来の投薬治療だけでは痛みを完全に抑えることが難しいという課題があります。
また、薬剤には副作用のリスクも伴います。さらに、急性期の痛みが慢性的な痛みに移行するのを防ぐためにも、効果的な急性期の痛みの管理は重要です。
この研究の目的は、救急外来での痛みに対して、鍼治療が実現可能か、患者さんに受け入れてもらえるか、そして通常の治療に加えて有効かどうかを明らかにすることでした。
現在、アメリカの多くの救急外来では、痛みの治療として、投薬治療(非ステロイド性抗炎症薬や、場合によってはオピオイドなどの強い痛み止め)が主な選択肢となっていて、オピオイドの過剰処方による依存症や死亡が社会問題となっています。
救急外来での鍼治療は、副作用の少ない非薬物療法として、オピオイドの使用を減らすための有効な手段として期待されています。
この研究では、236名の患者さんに協力して頂きました。患者さんを以下の3つのグループに無作為に分け、効果を比較しました。鍼治療の時間は20~30分で、イスに座ったり、ストレッチャーに寝たままで行いました。
1.耳鍼+通常の治療
耳の特定のツボ最大5か所に、鍼を打つ
2.体表鍼+通常の治療
鍼灸師が、頭、首、手足等、服を着たまま行いやすい部位のツボを選んで鍼を打つ
3.通常の治療のみ
医師の判断で行われる非オピオイドやオピオイドなどの投薬治療や、アイシング、湿布などの通常の治療のみ
*このグループの患者さんには、鍼治療と同様に鍼灸師との問診の機会を設けることで、追加の対話によるプラセボ(思い込み)効果を考慮する工夫がされました。
すべての参加者は、救急外来の医師や看護師によって行われる通常の治療を受けました。そして、治療の1時間後に、11段階の数値評価スケール(NRS)で痛みの変化を評価しました。
まず、救急外来という多忙な環境の中でも、鍼治療は実現可能であり、患者さんの受け入れも非常に高いことが示されました。鍼治療を受けた患者さんの多くが、治療に高い満足度を報告しています。
鍼治療の副作用(内出血、鍼を打った場所の痛み等)は軽度で一時的なものがほとんどであり、重篤な有害事象は極めてまれであることも確認されています。
最も重要な痛みの軽減効果についても、良い結果が得られました。治療1時間後の痛みの数値評価スケール(NRS)の変化を比較したところ、通常の治療のみのグループと比べて、鍼治療を併用したグループの方がより大きく痛みが軽減しました。
今回の研究により、救急外来という特殊な環境においても、鍼治療は急性の筋肉や骨の痛みの管理において、安全に実現でき、患者さんに大変受け入れられやすい治療法であることが分かりました。
通常の投薬治療と組み合わせることで、通常の治療だけの場合よりも、有意に痛みを軽減する効果があることも示されました。
特に、オピオイド等の薬剤使用を減らすことが課題となっているアメリカでは、鍼治療は副作用のリスクが低い非薬物療法として、非常に重要な役割を果たす可能性があります。
この研究は、急性期の痛みで困っている様々な人種や年代の患者さんのための新しい選択肢として、鍼治療の導入を強く後押しするものです。
今後は救急外来における鍼治療が、より多くの場所で広く導入されるよう、更なる研究と検討が進められることが期待されます。
日本とは医療制度や社会問題が違うので、国内の救急外来での導入は困難ですが、試験的導入 としてはアメリカ、オーストラリア等の一部で行われていて、薬に頼らない急性期の疼痛管理として検討されています。
参考文献
Eucker SA,et al.急性筋骨格系疼痛管理のための救急外来鍼治療の適応的実用的ランダム化比較試験.Ann Emerg Med. 2024 Oct;84(4):337-350
頭痛は体質だから、これくらいなら我慢しなきゃと、痛いのを一人で抱え込んでいませんか。
頭痛は我慢している方が多く、病院の先生や看護師さんたち(医療従事者)も同じです。
2つの大きな病院の調査では、職員の約7割が頭痛持ちで、特に女性や忙しい看護師さんに多いことが分かりました。さらに、辛いときでも半分以上の方が誰にも言わずに我慢しているという現状でした。
頭痛があるときは、仕事の能力も大きく落ちてしまうことがわかっていますが、忙しさや周りへの配慮から、専門家でさえ約2割しか病院を受診されていません。
頭痛はよくある症状ですが、我慢されがちで多くの人の生活の質を下げている深刻な問題です。
頭痛に鍼灸治療は効果的で、頭痛の診療ガイドライン2021でも、標準治療として鍼灸治療が非薬物療法の中の選択肢の一つとして推奨されています。
頭痛のない健やかな毎日を目指しましょう。