鍼治療は、慢性的な痛み、首の痛み、腰痛、膝痛、片頭痛等、様々な症状に対して世界的に有効性が認められている治療法です。しかし、患者さんの体質や心理状態等により、効果の現れ方には個人差があることが分かっています。
現在、この個人差を医学的に解明し、どのような方が鍼治療で改善しやすいかを事前に予測する研究が進められています。
脳画像をAI分析し、心理状態を考慮して、首の痛み、片頭痛、膝の痛みを対象にした中国の研究を基に、鍼治療の効果が出やすい人の特徴を説明します。
・首の痛みは、治療前の脳の機能的なつながりを分析し、85%で治療効果を予測
・片頭痛は、治療前の脳の特定の場所の体積を調べることで、83%で治療効果を予測
・膝の痛みは、鍼治療を受ける前の良くなるという期待感のような心の状態や、脳の一部の構造や働きで、約81%で、治療効果を予測
慢性的な首の痛みに関する研究¹⁾では、80名の患者さんに2週間で計6回の鍼治療を行い、fMRIで脳のネットワークのつながりをAIで分析しました。結果は85%で治療効果を予測できました。特に、痛みの感情を司る場所のつながりが、改善の重要な点となっていました。
片頭痛に関する研究²⁾では、41名の患者さんに4週間で計12回の鍼治療を行い 、脳の形や厚みをAIで分析し、83%で頭痛の日数が半分以上減るかを事前に判別できました。鍼治療によって、脳の視覚に関わる場所等に変化が起きることも確認されています。
膝の痛み(変形性膝関節症)の研究³⁾では、52名の患者さんに4週間の鍼治療を行い 、脳のデータに良くなりたいという前向きな期待感や性格を組み合わせることで、約81%で効果を予測できました。心理的な要因も脳と連動して、鍼の効果を引き出しているようです。
これら3つの研究(首の痛み、片頭痛、膝の痛み)は、鍼治療の科学的根拠を強める大きな一歩となりましたが、同時に今後の問題点も明確になっています。
1.設備や費用の問題
予測にはMRIや、AIを使った複雑な計算が必要です。これらをすべての鍼灸院や病院等で日常的に行うのは、費用の面でも設備の面でも、現実的ではありません。
2.長期的な効果の問題
今回の研究は、2~4週間の治療結果に基づいています。そのため、良くなった状態がどれくらい長く続くのか、脳の形やネットワークの変化がずっと維持されるのかについては、不明です。
3.参加人数の問題
研究に参加してくださった方の人数は、まだ限られています。性別、年齢、生活環境などが違う世界中の多くの人々に同じ結果が当てはまるか、繰り返し検証して精度を高めていく段階にあります。日本でも研究が行われると良いのですが。
4.鍼の特別な効果か不確定な問題
首の痛みの研究では、本物の鍼と偽の鍼を比較する対照群が設定されていなかったため、脳の変化が鍼特有の効果によるものか、治療を受けているという安心感による要因によるものかを完全に区別するには至っていません。
今回の3つの研究を通じて、鍼治療の効果が脳という客観的な指標で説明できる可能性が示唆されるようになってきたことは、鍼灸師にとっても、患者さんにとっても、喜ばしいことです。
首の痛み、片頭痛、膝の痛みのいずれにおいても、脳画像とAI分析によって8割を超える高い精度で治療効果を予測できることが示されました。
鍼治療は、脳に優しく語りかけ、本来持っている自然治癒力を引き出治療法です。医学的にも裏付けられつつあるこの心地よく優しい治療を、未経験の方はぜひ安心してお試しください。
参考文献
1)Gao Z,et.al. 機能的接続特徴に基づく首の痛みに対する鍼治療の効果予測:機械学習研究 .Ann Med.2025 Dec;57 (1):2548388.doi:10.1080/07853890.2025.2548388. Epub 2025 Aug 22.
2)Yang XJ,et al.片頭痛治療における鍼治療結果の予測因子.Front Neurol. 2020 Mar 5;11:111.doi:10.3389/fneur .2020.00111.
3)Wang X, et al. 慢性疼痛患者における鍼治療効果の心理的および神経学的予測因子:ランダム化比較神経画像試験.Pain. 2023 Jul 1;164(7):1578-1592.doi:
10.1097/j.pain.0000000000002859. Epub 2023 Jan 5.