
・視覚障害マッサージ師の主な勤務先は国立家庭医療センターで、週平均5.6日労働
・約3割が仕事上の困難を感じるも、約9割が仕事に満足している
・約7割が鍼治療に興味を持ち、約6割がキルギスでの鍼治療導入を希望
日本では、あん摩マッサージ指圧や鍼灸が視覚障害者の職業的自立を支える手段として確立されていますが、中央アジアに位置するキルギス共和国の視覚障害を持つ方々が、どのように社会で活躍しているかは、ご存じないかと思います。視覚障害を持つマッサージ師40名(平均年齢34.8歳)を対象に行われましたアンケートの論文がありましたので、紹介します。
キルギス共和国は中央アジアに位置する内陸国で、旧ソ連から1991年に独立しました。壮大な自然が魅力の多民族国家で、公用語はキルギス語とロシア語。遊牧文化を色濃く残し、伝統的なユルト(移動式住居)や馬文化が今も息づいています。在日キルギス人は(2024年6月)891人 で、最近、総合格闘技のRIZINフェザー級王者になったラジャブアリ・シェイドゥラエフ(Razhabali Shaidulloev)選手はキルギス人です。
親日的な国としても知られ、首都ビシュケクにあるキルギス国立医療大学附属専門学校では1999年から視覚障害者を対象としたマッサージ師養成のための医療マッサージコースを開始しています。期間は約2年で、毎年10名程度の学生が入学し、2020年までに163名の視覚障害者が卒業しています。日本からJICAの隊員がマッサージの指導員とした派遣されたこともあります。
マッサージ師としての就労状況
主な勤務先は、国立家庭医療センターが最も多く21人(52.5%)。次が国立病院が9人(22.5%)で、これら医療機関が全体の75%を占めています 。個人で開業し訪問マッサージを行っている人も12人(30.0%)いました。
障害等級が2級・3級の回答者では8人、1級の回答者では5人が複数の勤務先を選択していました。キルギスの医療機関では、筋肉、関節、骨の痛みなど様々な疾患に対してマッサージが安価で提供されており、このことが視覚障害を持つマッサージ師の雇用が多い理由と考えられます。
重度視覚障害者よりも弱視のマッサージ師の方が、複数の勤務を兼ねることで月収が高い傾向にあることが伺えます。
仕事への満足度と困難
回答者の87.5%が現在の仕事に満足していて、87.5%が仕事を続けたいと回答しています 。患者さんからの感謝が、仕事の満足度を高めている要因と考えられます。
一方で、32.5%が仕事上で困難を感じていて、特に障害等級1級の人ではその割合が50.0%と有意に高くなりました 。主な困難は、電子カルテが普及していないキルギスにおいて、紙媒体のカルテの読み書きに関するものでした。
視覚障害者向けの設備が不足しているため、同僚に読み書きを依頼する状況が多く、これが負担となっているようです。また、45.0%の人が就職活動においても困難を感じているようです。
女性、全盲者が抱える就職の壁
性別でも差が見られました。女性は男性よりも就職活動が困難と感じる割合が高く、社会的支援や偏見解消の取り組みが必要かと思われます。
また、全盲のマッサージ師は視覚補助設備が整っていないことで業務に支障を感じることが多く、技術支援や同行者による支援が求められているようです。
鍼治療への意識
現在、キルギスでは視覚障害者が鍼治療を行うことはありません。しかし、今回の調査では回答者の92.5%が鍼治療の存在を知っていて、67.5%が鍼治療をやってみたいと回答しました。
さらに、57.5%がキルギスで視覚障害者が鍼治療を行えるようになってほしいと希望しています。
日本では、視覚障害者が鍼灸師になることが認められており、国家資格(免許)制度も整備されています。中国や韓国、台湾でも一部に導入例があり、キルギスでも今後、鍼灸を視覚障害者の職業として取り入れ、職域拡大を図れればと思います。
参考文献
Dzhorobekova Shirinoi et.al:キルギス共和国の視覚障害を有するマッサージ師の就労状況と鍼療法に対する意識に関する調査
日本東洋医学系物理療法学会誌 第46 巻2 号