
百人一首は、平安から鎌倉時代にかけて詠まれた和歌を集めた、日本を代表する古典文学のひとつです。恋や自然を題材にした短歌が多く、今もなお多くの人の心に響いています。
その中に、お灸と関連のある一首があることをご存知でしょうか?恋の熱い想いと、身体を治すお灸。その二つが重なるこの歌は、現代人の心と身体を整えるヒントにもなります。
今回は、藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)の一首を紹介して、その中に登場するさしも草とお灸の関係を、現代の視点から考えてみましょう。
さしも草とは?お灸との関係
さしも草は現在ではお灸の原材料、蓬(よもぎ)のことです。これを乾燥し、加工したものがもぐさです。
伊吹山(現在の滋賀県、栃木の伊吹山説もあり)は、古くから薬草が多く採れることで知られ、その一つがこのさしも草でした。
51番かくとだに…の和歌とは?
かくとだに
えやは伊吹の
さしも草
さしも知らじな
燃ゆる思ひを
藤原実方朝臣
・現代語訳
これほどあなたを思っていると口にさえ出せないのに、伊吹山に生えるさしも草のように、私の思いは燃え上がっているのです。それをあなたは少しも知らないのでしょう。
この和歌では、激しく燃える恋心を伊吹山のさしも草(もぐさ)にたとえています。つまり、恋する気持ちをお灸の火に例えているのです。
さしも知らじな(あなたはまさか知るまい)という言葉には、伝えられない感情の苦しさや、静かに燃える情熱が込められています。それはまるで、目に見えない心の不調やストレスを、誰にも気づかれずに抱えている現代人の姿にも重なります。
まとめ
藤原実方朝臣の「かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」は、恋の情熱を「お灸の火」にたとえた美しい短歌です。
そこに込められた熱い想いは、ただの恋心ではなく、心身一如という東洋的な視点を私たちに教えてくれます。
現代の私たちもこの和歌をきっかけに、心と身体をいたわる暮らしを見つめ直してみてはいかがでしょうか。