鍼灸院に通院される患者さんの喫煙率は低く、当院の患者さんでも少数なのですが、慢性的な痛みにお悩みの喫煙者の方へのお話です。
喫煙者の患者さんの認識では、喫煙の肺や血管への影響はご存じかと思いますが、長引く痛みに対してタバコは痛みを強くし、治りを遅くする大きな原因であることはご存知ない方が多いかと思います。
痛みの専門家が集まる日本ペインクリニック学会が、過去20年間の研究データを分析してまとめた、喫煙と慢性的な痛みの関係を説明します。
• 喫煙者の慢性的な痛みの危険性は非喫煙者の2倍以上あり、痛みの強度も強くなる傾向があります。
• ニコチン切れによる離脱症状が神経を過敏にさせ、痛みを感じやすい体質を作ります。
• 喫煙は椎間板の変性や骨粗鬆症を引き起こし、腰痛等の原因を自ら作り出します。
• 手術前3週間以上の禁煙を行うことで、術後の痛みを和らげ、回復を早めることが可能です。
喫煙と痛みの関係
2000年1月から2020年6月までの20年間に発表された、英語と日本語の医学研究を専門家が分析した結果です。
研究の結果、慢性疼痛に悩む方の喫煙率は42〜68%で、非喫煙者の2倍以上でした。また、喫煙は筋肉や骨の痛みを20%以上高め、背骨の痛みや頭痛の発症リスクも2倍以上で、10年以上の痛みが続くリスクも喫煙者は1.4倍です。
なぜ煙草が痛みを強くするのか
タバコに含まれるニコチンは、吸った直後は脳内でドーパミンや内因性オピオイド(天然の鎮痛物質)を出し、一時的に痛みを忘れさせます。しかし、この効果は30分ほどで切れてしまいます。
ニコチンが切れると、脳や神経は逆に痛みに対して非常に過敏な状態(痛覚過敏)になります。
喫煙を続けると、この一時的な緩和と離脱による痛み増強を繰り返す依存のサイクルから抜け出せなくなり、結果として常に強い痛みを感じ続けることになります。
また、喫煙は血流を悪化させ、組織の修復を妨げます。具体的には、背骨のクッションである椎間板を傷めたり、骨密度を下げて骨折のリスクを高めたりするため、腰痛などの物理的な痛みの原因を自ら悪化させてしまうのです。
最近の加熱式タバコも、紙巻きタバコと同程度のニコチンを含むので、同様のリスクがあると考えられています。
治療や薬への影響
タバコを吸っていると、せっかく処方された痛み止めの薬が身体に吸収されにくくなったり、手術やの効果が十分に得られなかったりすることがあります。
ですが、手術を受ける3週間以上前から禁煙を頑張ることで、手術後の痛みをはっきりと軽くできるというデータも出ています。
まとめ
慢性的な痛みを抱えている方は、痛みによるストレス解消のためにタバコが手放せないという方もいらっしゃるかと思いますが、禁煙そのものが痛みの重要な治療であるという考えを持つことが、痛みの緩和への近道となります。
禁煙を始めると、最初は離脱症状で痛みが増したように感じることがありますが、これは身体が正常に戻ろうとしている一時的な兆候です。
禁煙が困難な方は禁煙外来に通院したり、禁煙補助薬を使用して、禁煙中のイライラや痛みの増強を抑えることもできます。また、禁煙と並行して運動を取り入れることもおすすめです。
運動による鎮痛効果は依存性がなく、生活の質を向上させてくれます。
当院の近辺の旧古川庭園や六義園のお散歩も良いかと思います。
